不当判決

2018年9月27日。全国5つの法廷闘争で先行してきた大阪の「高校無償化」裁判控訴審判決が言い渡されました。
多くの人が悲しみの報告、怒りの告発をした通り、結果は子どもたちの学習権を一顧だにしない権力に対する盲目的な迎合のみの「不当判決」でした。
国による朝鮮学校差別を是正し、真の「教育の機会均等」を勝ち取ろうと裁判所に集まった300を超える卒業生や保護者、同胞たちと日本人支援者たちが法廷で目の当たりにしたのは、傍聴席真正面に座ったチマチョゴリ姿の高級学校生徒たちが真剣な眼差しで見守る顔を直視することもできずに、判決文をそそくさと読み上げ、逃げるように退廷する裁判官たちの姿でした。
あまりのあっけなさに一瞬、茫然自失となった保護者の一人が叫びました。「恥を知れ!」それを機に爆発した傍聴席の怒りは号泣と怒号となり裁判官の背中に浴びせられました。
すぐさま弁護士の二人が判決を知らせる幕を手に裁判所の外へと走り出ました。彼らが広げる幕に書かれた「不当判決」、「子どもたちを司法は見捨てた!」の文言に、正面玄関前で待っていた人々はしばし絶句し、大きなため息をつきました。
やがて「司法は恥を知れ!」、「子どもたちを差別するな!!」と、怒りに満ちたシュプレヒコールが沸き起こり、歌が始まりました。その歌は、文科省前で行われている「金曜行動」で歌い継がれている「声よ集まれ歌となれ」でした。シュプレヒコールと歌は長い時間続きました。

2013年1月24日から始まった大阪の「高校無償化」裁判は、愛知とともに全国に先駆け行われた法廷闘争の中でも唯一卒業生や在校生ではなく、運営母体である大阪朝鮮学園が原告となり、国を相手取って闘われた裁判でした。
直接的な当事者たちの切なる訴えを法廷で裁判官にぶつけてこそ、広く世論に訴えかける効力も大きいことは十分にわかりつつも、出廷により矢面に立たされる生徒たちの心の傷、身の安全といったリスクを考慮して諦めざるを得ませんでした。
それでも、「就学支援金」の受給対象は子どもたちであることに何ら変わりはなく、「学園」など学校設置者の立場は「代理受領」に過ぎません。これは他ならぬ文部科学省自身の取り決めです。にも関わらず、国は「拉致問題に進展が見られない」などの政治的理由を覆い隠すため、「規程13条の適合性」という「こじつけ」を持ち出しました。曰く「朝鮮学校を『不当に支配』している総聯組織が受給した就学支援金を不当に巻き上げ、授業料以外の使途で流用する」と。ですが、事実がそうでない以上、法廷に出せるような証拠があるはずもなく、「就学支援金の管理が適正に行われるという確証が得られなかった」という、立証責任の所在をも無視した口実を出すのが精一杯でした。しかし、そんな稚拙な主張のほころびをも度外視し、高裁は政府に媚びる破廉恥な「忖度判決」を下したのでした。

閉廷後の記者会見で、大阪朝鮮高級学校の卒業生である申泰革(シン・テヒョク)さんは、「この問題は、ただ単に一つの高校に『無償化』制度を適用するか否かという問題ではなく、日本社会が在日朝鮮人を受け入れようとするのか、それともなかったものにしようとするのか、という問題だと思っている。」「日本国、そして主権者たる日本国民の問題でもあると思っている。差別に対してどう向き合ってゆくのか、どのような政策を行ってゆくのか、この判決を機にぜひ一度考えていただきたい。」と語気を強めて話しました。
また、弁護団長の丹羽雅雄弁護士は「1審判決は子どもの学ぶ権利を考えてくれたが、高裁は朝鮮総連との関係のみで判断した。著しく不当な判決だ」と話しました。そして、原告・大阪朝鮮学園の玄英昭(ヒョン・ヨンソ)理事長が不当判決を糾弾する声明文を怒りに震える声で読みあげました。


夜、「クレオ大阪中央」で判決報告集会が開かれました。およそ600人の参加者たちは、憤まんやる方無い思いでホールに集いました。
集会では、まず韓国のドキュメンタリー創作「牛」のチェ・アラム監督が、モンダンヨンピルの協力を受けて製作した映像が上映されました。「私たちの声が届いたならば」というタイトル通り、朝鮮学校誕生から草創期、今日までの歴史と、民族教育を守り抜いた同胞たちの闘い、そして「学ぶ権利」を求める学生たちの声を無視し、差別政策を打ち出した現政権との闘いの様子が描かれていました。
長崎由美子事務局長の司会で集会が始まりました。
まず、金英哲弁護士が判決についての報告をしました。金弁護士は、去る地裁判決がもたらした意義を、広島、東京、愛知の地裁判決と比較して説明しました。特に「規定ハ削除の違法性」、「規程13条適合性」、「指定の義務付け」問題で学園側の訴えが認められたことの意義が極めて大きかったとした上で、逆にこの度の判決では何ら説得力のある理由もなく、ただ単に国を勝たせるという結論に沿ってこれらの重要な問題をひたすら否定した高裁の重大な問題点について鋭く指摘しました。そして、「落胆している暇はない。即座に上告を表明した学園の意向に従って上告理由書と上告受理申立理由書の作成に取り組む」と最高裁に向けた新たな法廷闘争の始まりを告げました。
続いて、大阪朝鮮学園・玄英昭理事長が声明文を読み上げ、当事者と支援者たちのアピールに続きました。
まず初めに、大阪朝鮮高級学校の3年生が登壇しました。制服のチマチョゴリに身を包んだ生徒は、「ウリハッキョに12年間通い、民族教育で学んできたことと、在日朝鮮人としての存在自体が否定されたような気がして悔しくて悔しくてたまりません」と嗚咽をこらえながら語りました。それでも「たくさんの人に支えられ、闘いを続けてこられた」といい、「必ず訪れる勝利を信じて共に闘い抜きましょう!」と力強く呼びかけました。
次に、大阪朝鮮高級学校オモニ会の洪貞淑会長が役員たちと共に舞台に上がり、保護者の立場から民族教育を守る運動の重要性を語りました。続いて、日本人支援者を代表して「大阪朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪」の大村和子さんがアピールをし、東京、愛知、広島、福岡からの応援アピールへと繋げました。その後、韓国からの連帯アピールがありました。「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」からソン・ミフィ共同代表、日本軍「慰安婦」被害者のキム・ポットンさんとキル・ウォノクさん、モンダンヨンピルのキムミョンジュン監督がそれぞれ登壇し、声明文を読み上げ、「災害支援金」を無償化連絡会と朝鮮学園に手渡しました。玄理事長の手を固く握り、集会参加者たちに向け「諦めてはいけない。必ず勝利する日はやってくる!がんばりましょう!ファイティン!!」と力強く訴えたキム・ポットンさんに会場から万雷の拍手が送られました。
「無償化連絡会・大阪」の声明文を共同代表の宇野田尚哉教授が読み上げ、集会の最後に、弁護団の丹羽雅雄弁護団長が閉会の言葉で集会を締めくくりました。丹羽弁護団長は、「本来、植民地支配の責任から日本政府には朝鮮学校を国家として全面的にバックアップする義務があったはずだ。」「ところが、やっと『高校無償化』法ができたのに、真逆の歴史の反動として朝鮮学校の子どもたちだけ排除する、これほど歴史を侮辱した行政、政府の行為はない!断じて許されない!」と激しい口調で断じました。さらに「このような不当判決を加害の責任を負う日本人として絶対に許せない!絶対に勝ち抜く!最後の最後まで勝ち抜く!!」と力強く語りました。
最後に丹羽弁護団長は「最後まで!最高裁をひっくり返す覚悟を持って闘い抜く!」と高らかに宣言しました。
会場を揺るがす大きな拍手が沸き起こりました。すべての参加者が弁護団への感謝と信頼を込めた拍手が長くホールを包みました。
その後、司会を務めた長崎由美子事務局長のリードで参加者全員、力一杯勝利に向けたシュプレヒコールを叫び、歌を歌って集会を終えました。

この日の不当判決によって、全国で唯一、大阪で勝ち取った「正しい司法判断」、「意義ある勝訴判決」は消失しました。
朝鮮学校の子どもたちは笑顔を失い、希望を失いました。また、日本社会は「寛容」と「共生」を、そして司法は「三権分立」の命脈である「独立性」を自ら放棄してしまいました。
ですが、失ったものばかりでは決してありません。
裁判所のいたるところで肩をだきあい怒りと悔しさを共有し、共に涙を流した私たちは、この日さらに強固な信念を得ることができました。次の闘いへと繋がる確かな気持ちと結束を得ることができました。
私たちは民族教育を守り抜くため、また立ち上がらなければなりません。
法廷において最も重要な「公正」とともに正義までもかなぐり捨てて権力におもねった「政権救済判決」を私たちは決して許すことができません。なぜなら、この裁判で問われたのは普遍的な教育権に関わる問題だからです。「すべての意志ある高校生たちの学びをサポートする」と謳って始まった「高校無償化」制度から朝鮮学校のみを除外した国の差別政策を許すことは日本社会の民主主義を否定することにもつながります。
すべての子どもたちが等しく学べる豊かな社会を目指して、また一緒に声をあげ、一歩ずつ歩を進めてゆきましょう!

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