第15回口頭弁論

府が主張する交付要件の矛盾を指摘

◆厳しい猛暑に加え、前線の影響で雨に見舞われた8月20日、大阪地方裁判所 202号法廷において「大阪府・市補助金裁判」第15回口頭弁論が行われました。あいにくの空模様にも関わらず、この日も朝鮮学校に学ぶ子どもたちに一日も早く笑顔が戻るよう、常に力強い運動を推し進めてくれている同胞・保護者、日本の支援者の皆さんが傍聴に駆けつけてくれました。

◆今回で15回目を数え、いよいよ大詰めへと向かうなか、今回の法廷では我が原告側から第11、第12準備書面が提出され、弁護団から原啓一郎弁護士が要旨陳述を行いました。陳述の中で原弁護士は、被告大阪府が補助金交付の要件として、「1条校に準じる」ことが創設以来の要件として必要であり、さらにそれは(明文はなくとも)本件補助金の制度に内在する要件であるとした主張を「全くの誤り」と断じました。原弁護士は「1条校」は「日本国民」の教育を前提とした制度であり、その内容として、学習指導要領、検定済み教科書、日本国教員免許の「3点セット」が不可欠の要素である。また、それに「準ずる」とは、「1条校」の教育の枠内で、生徒の特性に鑑み、出来ない事は免除されるといった、いわば「タテの関係」だと説明しました。

◆他方、外国人学校における教育は当然のこととして「日本国民」の教育を前提としておらず、実践上も、言語や社会科といった科目の内容、教育目的、あるいはベースとなるアイデンティティの基盤の置き所が異なるゆえ、上記「3点セット」のいずれの枠内にもない存在だと説明しました。そして、「1条校」とは「ヨコの関係」にある存在であり、その「ヨコの関係」を総称したものが「普通教育」であると説きました。さらに、そういった「外国人学校」である朝鮮学校が1条校に「準じる」すなわちその枠内にあるべきものという評価は原理として曲がっており、そこで明示もなくそれが制度の「内在的要件である」などと軽々しく解釈することはできないとしながら、大阪府において2012年3月、「補助金交付要綱改訂」の際に「学習指導要領」という「1条校」を体現する規定がはじめて入り込んできた事実を指摘しました。またこの改訂に関する大阪府議会議事録での行政答弁を挙げ、「補助金の支給の要件に朝鮮学校にだけ特別に付加した」、「国や他府県にない大阪府独自の要件を設けたもの」など、「1条校に準ずる」ことが創設当時からの変わらない要件でもなく、制度に内在する要件でもないことを明らかにしました。

◆また、被告自身の主張を引用しつつ、本来「学習指導要領」に着目することなく、いわば「ヨコの関係」を満たしていれば大阪府自身が補助金交付の要件を満たしていると認めていた。なおかつ要綱改訂以前には朝鮮学校がこれらの要件を満たしていたと指摘しました。

今回、意見陳述を行った原啓一郎弁護士が要旨を説明しました。 さらに原弁護士は、三人の学者による鑑定意見書からなる第12準備書面について要旨陳述を行いました。まず、大阪府下10校に子どもを就学させている保護者を対象として実施したアンケートの結果を踏まえ、各家庭の状況や意識について分析、評価を行った伊地知紀子教授の鑑定意見書について説明しました。鑑定意見書では、朝鮮学校保護者の属性が過去とは異なり多様化している事実、無償化制度から除外を受けてもなお、朝鮮学校を選択している事実などから、子どもたちの就学に際して、自身のルーツを確認し、歴史や文化、言語の継承に重きを置いていることが分析されています。また、日本で出生し暮らしていく実状に沿って、朝鮮学校が日本学校と何ら遜色のない教育課程を設けている事実や、無償化除外、補助金不支給により厳しい経済的負担を強いられている事実などを挙げ、制度差別に対して疑問を呈しています。そして、アンケートの自由回答を引用しつつ、行政自らが政治と教育の問題をからめて制度的差別を公然と行い、子どもたちの教育を受ける権利、また幸福権を侵害していると指摘しました。
◆続いて藤永壮教授の鑑定意見書について陳述しました。同意見書は、戦前・戦後を通じ、日本政府によって在日朝鮮人の民族教育に対する弾圧及び同化政策が繰り返されてきたこと、またそのような植民地主義的な同化教育の思想が、今日の大阪府・市補助金停止の論理としても継承されていることを主張していると指摘しました。
◆そして、最後に田中宏教授の鑑定意見書について陳述しました。同意見書では、第一に、他の外国人学校と朝鮮学校とでは、無償化適用や補助金交付に係る「調査の手法」において著しい差があり、不合理なダブルスタンダードである点、第二に、政治的な目的が先にあり、その結論に合わせるための対応として「要綱改訂」などが後付けされた恣意的な点が指摘されています。また、国連が高校無償化除外や補助金不支給等の問題を「教育における差別」と捉えており、日本国内の主張が全く受け入れられていない事実から、これらが明らかな制度差別であり、国際社会から厳しい目を向けられている現実について指摘しました。
最後に原弁護士は、補助金不交付の処分が国際人権法に違反するとした原告の訴えに対し「裁判規範性がない」とした被告の主張に反論して陳述を終えました。

◆その後、裁判長から被告に対し、今回提出された書面への反論及び今後立証する予定はあるかとの質問がなされましたが、府・市ともに「今後検討する」という極めて曖昧な回答しか得られませんでした。来月、提訴から丸3年を迎えよういうこの期に及んで、まともな主張はおろか、反論すらままならず、今後の立証さえも予定にない被告の不誠実な態度に傍聴席からは声にならない怒りの嘆息がもれました。丹羽弁護団長も、少しでも早く審議を進めるため、被告に対して次回期日への対応を急ぐよう促しましたが準備に時間がかかるとの理由でそれも叶いませんでした。最後に日程調整を行い、次回期日を11月17日(火)午前11時30に、それに先立ち進行協議を11月10日と決め閉廷しました。

◆裁判終了後、いつもの様に大阪弁護士会館にて「報告会」が行われました。丹羽弁護団長がまず今裁判の流れと争点、今後の方針について発言され、本日法廷で陳述した原弁護士が内容をかいつまんで報告しました。その後、無償化連絡会・大阪の長崎由美子事務局長から、今後更に重要となってくる裁判の行方をしっかりと見守り、ともに法廷闘争を勝ち抜こうと呼び掛けられました。