声明・要請文

「最終的に被害を受けるのは朝鮮学校の生徒たちだ。」 〜 国連・人種差別撤廃委員会が日本政府に勧告 〜

2014年8月、スイス・ジュネーブで行われた国連・人種差別撤廃委員会。日本政府定期報告書に対する審査が行われた。1995年に人種差別撤廃条約を批准している日本に対しての審査は2001年、2010年に次いで3回目となる。
日本政府代表団による報告が行われた後、全18名の委員のうち三分の一にあたる6名の委員が朝鮮学校の「無償化・補助金問題」について言及した。「朝鮮学校は政府による支援を受けられていない。日本政府が朝鮮学校の教育を支援する方法を探るように」「他の学校—中華学校やアメリカンスクールと同じカテゴリーに無く、朝鮮学校だけが別扱いされているように見える」「朝鮮学校が補助されていない。この差別的取扱いの根拠はは何なのか。言語か、国籍か、教育の質か? なぜ? 私たちの条約に反する差別か?」「朝鮮学校除外は、拉致問題調査の進展不足という決定に基づいていると理解する。これは、多くの人々の適切な教育を奪ったことについて、曖昧な理由に思える」といったものが委員たちの主な発言であった。
これに対して、日本政府・文部科学省の代表は「朝鮮学校の『高校無償化』にかかる不指定処分は差別にあたらない」「朝鮮学校は朝鮮総連と密接な関係にあり、また朝鮮総連は北朝鮮と密接な関係にあると認識している」「今後、朝鮮学校が都道府県知事の認可を受けて一条校になるか、または北朝鮮との国交が回復すれば、現行制度でも審査の対象となり得る」「一条校や、すでに指定を受けている外国人学校には、現に多くの在日朝鮮人・在日韓国人が学び、本制度による支援を受けているので、国籍を理由とした差別にはあたらない」と回答した。
その後、日本代表の不誠実な回答を非難し、差別を指摘する質問が多くなされたが、文科省からの回答は委員からの質問をはぐらかし、あらかじめ用意した回答を繰り返すことに終始した。
審査が終わりに近づいてきた頃、モーリシャスの委員が日本政府の回答を批判したうえで「無償化」問題について再度発言した。

「18名の委員がいますが、そのうち多くの委員から質問が出されたとしたら、それは貴方たちに繰り返し訴えていることを意味します。なぜなのでしょうか?質問が2回も3回も出される理由は何なのでしょうか?答えは単純です。回答が満足なものではないからです。それが私たち委員の思いだということをはっきりさせておきましょう。」
「さて、私も繰り返しになると思います。これまで何度も何度も出されている問題について質問をします。朝鮮学校についてです。私が昨日質問した内容は、中華学校やアメリカンスクールなど、日本語以外の言語・文化を促進する他の学校と一緒に分類されている中で、差別が存在するという主張があるということだったと思います。…… 一人の職員から、審査を経て朝鮮学校が基準を満たさなかったと聞きました。その基準とは何なのでしょうか?それらの学校が朝鮮民主主義人民共和国に近いということでしょうか?しかし、委員から出されている基本的な質問は、これは差別の問題ではないのか、ということです。人種主義の、人権の問題ではないでしょうか?最終的に誰が被害を受けるのでしょうか?それは朝鮮学校に通う学生たちです。私たちはそのような観点から、差別が存在すると言っているのです。…… 私たちがこの問題にこだわっているのは、これが差別という人権侵害の問題であると私たちが感じているから繰り返されているのです。」

こうしたやり取りを経て、日本審査は終了した。

審査終了から一週間が経った8月29日、委員会は日本政府に対して30に渡る勧告を含む総括所見を公表した。うち「朝鮮学校」という項目の着いたパラグラフ19では、以下のような懸念および勧告が表明された。

朝鮮学校
19.委員会は、朝鮮を起源とする子どもたちの下記を含む教育権を妨げる法規定及び政府による行為について懸念する。
(a)「高校授業料就学支援金」制度からの朝鮮学校の除外
(b)朝鮮学校へ支給される地方政府による補助金の凍結もしくは継続的な縮減(第二条と第五条)
市民でない者に対する差別に関する一般的勧告
30.(2004年)を想起し、委員長は締約国が教育機会の提供において差別が無いこと、締約国の領域内に居住する子どもが学校への入学において障壁に直面しないことを確保する前回総括所見パラグラフ22に含まれた勧告を繰り返す。委員会は、締約国がその見解を修正し、適切な方法により、朝鮮学校が「高校授業料就学支援金」制度の恩恵を受けられるようにすること、また、朝鮮学校への補助金支給を再開もしくは維持するよう、締結国が地方政府に進めることを奨励する。委員会は、締約国がユネスコの教育差別禁止条約(1960年)への加入を検討するよう勧告する。

【勧告の意義】
1.朝鮮高級学校に対する「高校授業料就学支援金」制度適用除外と、地方自治体による「補助金支給停止」が、国際人権法上の「人種差別」であることが明らかにされたこと。
2.委員会日本政府に対して見解を修正し、適切な方法により朝鮮学校の無償化制度適用を勧告していること。

同委員会で「補助金」問題の是正を求める勧告が出されたのも初めてのこと。日本の地方自治体も条約を誠実に遵守する義務があるため、この勧告に従って朝鮮学校への補助金を再開若しくは維持しなくてはならない。
さらに、この度の総括所見では30の勧告の内「徳に重要な勧告」とされた四つの勧告に、上記の朝鮮学校に関する勧告が含まれた。朝鮮学校生徒たちの日本政府・地方自治体による教育権侵害が特に重要な問題であるという認識を委員会が明らかにしたことの意義は非常に大きい。

※次回の日本政府報告書(2017年1月までの提出が義務付けられている)に、朝鮮学校への「無償化」適用や地方自治体の補助金再開・維持のために日本政府がどのような措置を取ったのか詳細に報告する義務があるとされている。