控訴審第3回口頭弁論

結審

◼️20184月27日。3回目となる「高校無償化」裁判控訴審口頭弁論が大阪高裁で開かれました。数日前、民族教育を守り抜いた先達の思いを引き継いで行われた「4.24阪神教育闘争70周年記念・火曜日行動」の熱気そのままに、この日も135名もの人が傍聴に駆けつけました。参加者たちの多くが午前中に行われた歴史的な南北首脳会談を感激と大きな賞賛で見守り裁判所に集いました。そして今回も大阪朝鮮高級学校の3年生代表20名が傍聴に訪れました。
抽選券が配布され結果を待つ間、同じ日の午後2時から名古屋地方裁判所で行われる「愛知高校無償化」裁判判決言い渡しを傍聴しに行った無償化連絡会・大阪の長崎由美子事務局長から判決の連絡が届きました。結果は広島、東京に次ぐ不当判決。知らされた大阪の参加者たちから落胆と怒りのため息がもれました。
抽選後、記者席9席を除く当選者82名が所持品検査を経て裁判所へと入りました。
◼️午後3時、裁判が開始されました。
冒頭、裁判長が双方から提出された主張書面と証拠を確認しました。
続いて、被控訴人側の代理人、および代表意見陳述が行われました。
まず、弁護団から金英哲弁護士が、今回提出した準備書面の要旨陳述を行いました。
金弁護士が行なった陳述の要旨は、本件規定13条に「適合すると認めるに至らない」とした文部科学大臣の判断と不指定処分が違法であることを改めて整理したものでした。
金弁護士は本件規定13条適合性に関する文科大臣の裁量権について述べました。「行政裁量」そのもの自体が法律に基づかなければならない「法律上の根拠がなければ」認められないものだという大前提をまず明らかにした後、金弁護士は「高校無償化法」の規定が「高等学校」や「専修学校」及び「各種学校」を全て支給の対象に含んでおり、文科大臣に支給対象校を選別する裁量がないと指摘しました。
すなわち、法律を実行する立場にある大臣が、その法律の規定により許される範疇を逸脱して自ら裁量を生み出すことはできないと断じました。
また、国側が前回期日で自らの主張を無理やり通すため唐突に持ち出した「教育基本法16条1項」による「不当な支配」について述べました。
金弁護士は、そもそも「教育基本法」が国家による強い支配のもとで教育が形式的、画一的に流れ、時に軍国主義的、国家主義的傾向を帯びてしまった戦前に対する反省に基づき制定された事実を紹介し、同法16条1項が教育に対する行政権力による介入を警戒し抑制するために定められたと指摘しました。言わば、この裁判で度々持ち出された「不当な支配」云々は、国と文部科学大臣にこそ向けられるべき問題であることを再び明確に示しました。そして仮に百歩譲って極めて限定的に裁量権があったとしても文科大臣の不指定処分が事実誤認であり、信義則、平等原則に違反し、判断過程の過誤、手続違背だとして裁量権の逸脱であると確言しました。
金弁護士は最後に、速やかに控訴が棄却され、大阪朝鮮高級学校生徒に就学支援金が支給されることによってのみ、この法の趣旨である「教育の機会均等」が実現されると述べました。
◼️続いて玄英昭理事長が被控訴人を代表して意見陳述を行いました。玄理事長は、4年6ヶ月、16回の口頭弁論に及ぶ法廷闘争を経て歴史的な勝訴判決を得た経緯を辿りながら、改めて「高校無償化」制度から朝鮮高級学校のみが除外された差別的な現実が、いかに子どもたちの心に癒えることのない深い傷を残したかを語りました。そして昨年7月28日、歴史的な勝訴判決を受けて開かれた報告集会で登壇した生徒の発言を引用しました。「この数年間私は、大阪から出て行け、嫌なら日本学校に行けばいい、日本人として生きればいいと言われている気持ちでした。私たちはただ、ウリハッキョで自分の国の言葉や歴史を学んで朝鮮人として堂々と生きていきたいだけなのになぜ除外しようとするのか、なぜ認めてくれないのかと、やるせない気持ちでした。
正直、今日の裁判は不安でいっぱいでした。今私が着ているこのチョゴリは、通学の時は着れません。第二制服を着て通学します。街にあふれるヘイトスピーチや無償化裁判、補助金裁判と、堂々と生きることがこんなにも難しいのかと、また、純度100%じゃなければ、のけものにされるような最近のニュースを見て、余計に不安は大きくなるばかりでした。
判決を聞いて私たちは、手をつなぎあい、抱きあい、泣きました。やっと、やっと私たちの存在が認められたんだ。この社会にいていいんだよと言われたような思いでした。」
玄理事長は、民族のアイデンティティーを育む自分たちの存在が認められた生徒たちの喜びを紹介した後、「裁判官の皆様!この生徒のコメントを聞いてどのように思いますか?私は、これが日本社会の『今』を表していると思います。」と裁判官らをまっすぐ見据えて言いました。そして、朝鮮高級学校の生徒らは今も自分の夢を叶えるためひたむきに勉学に励んでいるとしながら、このまま裁判が長引けば、また就学支援金を受けられず辛く悔しい思いを抱えたまま卒業する生徒が増えてしまうと語り、迅速に公正で平等な判断をしてくれるよう強く訴えました。
生徒の発言をたどる場面で度々嗚咽をこらえる理事長の陳述が静まり返った法廷に静かに響きました。
◼️その後、裁判長が双方に向けて二度、更に付け加えることはないか問いましたが、学園側はもちろん国側からも追加する主張はありませんでした。裁判長が弁論の終結を宣言し、判決の言い渡しを9月27日、午後3時からと宣言して閉廷しました。
◼️裁判終了後、場所を弁護士会館に移し報告会を行いました。会には、傍聴した人々や生徒に加え、朝高生徒たちに当たりの傍聴券を譲ってくださった方々も裁判終了を待って参加してくれました。無償化連絡会・大阪の大村和子さんが司会をしました。
まず、丹羽雅雄弁護団長が発言しました。丹羽弁護士はこれまでの裁判経緯を含め今回の弁論期日を総括しました。その中で丹羽弁護士は玄理事長が行った代表意見陳述に触れ、その内容が裁判官に響いたはずだと言いました。そして、またしても不当判決が言い渡された名古屋での裁判について、名古屋朝鮮学園側が即日控訴を表明した今、判決結果を悲観し一喜一憂すべきでない、闘いはこれからも続くと力強く述べました。大阪もしかり。高裁でも訴えが届かなかった「大阪府・市補助金裁判」でも、原啓一郎弁護士をはじめとする弁護士たちが最高裁に向け現在も全力で臨んでいる。こんな時こそただ待つだけではなく、積極的な運動展開をもって世論を喚起すべきだと力強く呼びかけました。
◼️次に、要旨陳述を行なった金英哲弁護士が、法廷での発言内容を解説しました。金弁護士は、これまで積み重ねてきた我々の主張に国側は何ら効力ある反論ができなかったとし、最後にこちらの主張をまとめられた意義は大きかったと手応えをにじませました。続いて弁護団のメンバーたちが順に発言し、最後に代表陳述を行なった玄英昭理事長が発言しました。玄理事長は9月の判決言い渡しを何もせず待つばかりではなく、どんどん運動を盛り上げて行きたいと決意を表明しました。◼️続いて大阪朝鮮高級学校の生徒代表がスピーチをしました。参加者たちの前に立った代表の女子生徒は、自分たちの見えないところで、朝鮮学校のため、自分たちのために闘ってくださる多くの方々がいらっしゃるからこそ笑ってウリハッキョに通うことができる。「4.24阪神教育闘争」があった70年前から今も続く民族教育への弾圧や差別と闘って来られた同胞たち、日本の方たちの存在を私たちが知らなければならない。これからも民族教育の歴史を深く知り、朝鮮人として堂々と学び生きてゆくと凛とした表情で誓いました。
説明会の最後に「大阪オモニ連絡会」の代表たちが去る4月17日に主催したセミナーの際、物品販売で得た収益金を「高校無償化連絡会・大阪」藤永壯共同代表に手渡しました。オモニ連絡会を代表して発言した大阪朝鮮高級学校オモニ会の高己蓮副会長は、70年前と民族教育の置かれた厳しい状況は変わらないが、民族教育を守り抜いた先達の思いはしっかりと受け継いでいる。子どもたちのために私たちの代で決着をつけようと力強く呼びかけました。
参加者たちの大きな拍手と賛同で報告会を締めくくりました。