控訴審第1回口頭弁論

全国5カ所で行われている「高校無償化」裁判。その中でも一歩先に進んでいる大阪で法廷闘争が第二審を迎えました。
12月14日。夏の日の歓喜が遠く感じられるほどの身を切る寒さの中、大阪高等裁判所に108名の傍聴希望者たちが集まりしました。
唯一、地裁判決で勝訴を勝ち取った大阪には全国から注目が集まっています。この日も、傍聴席の最前列13席を「記者席」として取られ、裁判に臨めたのは78名に限られました。
裁判は11時に始まりました。「無償化」と「補助金」あわせて40回を数える裁判期日を経て、この日はじめて我が弁護団が傍聴席から見て右側、すなわち被告席に陣取りました。上告した国の訴えを迎え撃つ立場です。
まず、弁論事項として裁判長が書証の確認をしました。続いて、それぞれの代理人が控訴理由と答弁書の内容について要旨陳述を行いました。
この日、控訴人(国側)からは控訴状と控訴理由書が提出され、被控訴人(学園側)からは答弁書が提出されました。
先に、控訴人(国側弁護士)が控訴理由書の要旨について意見陳述しました。
国側弁護士は「大阪朝鮮高級学校が就学支援金に関する指定の要件を満たすとは認められないとした文科大臣の判断が『裁量権の逸脱』または『濫用』したものだとし、またいわゆる『ハの規定』を削除したことが制度の趣旨を逸脱して無効だとした原判決の判断が誤りである」として「根拠」を主張しました。
驚くことに彼らは自らの都合に沿うよう、より抽象的な規定を多く持ち込み、控訴審のために独自の枠組みを新たに設定し主張を展開しました。それは、後付けの理屈である「不当な支配」が第一審で論破されたからに他なりません。国側はまず第一に、大阪朝鮮高級学校が指定の要件を満たすとは認められないとした文科大臣の判断に誤りがないと主張しました。いわく、「教育内容はもちろん金銭の出納を含めた学校運営全般について、教育基本法に定める教育の理念や基本原則に適合するものであることが当然に求められる。」このような規定の「拡大解釈」が他の外国人学校に対する適用との比較において矛盾を肥大化させるだけだという事実を顧みようともしない暴論です。呆れたことに国側弁護士は、原判決の朝鮮学校に対する認識と評価について「一般社会における健全な常識を大きく逸脱する認識の誤り」が、本件規定13条適合性が認められるとした「誤った判断」に「直接的に影響を及ぼした」と主張しました。そればかりか、規定「ハ」の削除について、「削除するに至る基本的な事実経過に照らしても、ハ規定の削除は文部科学省内でもかねてからの懸案事項でしたから、いずれにせよ文科大臣の外交的、政治的意見によるものでないことは明らか」だと断言しました。
地裁判決を覆そうと、満を持して行われた意見陳述でしたが、極めて客観性に乏しい浅薄な主張と言わざるを得ません。皮肉にも、その直後に行われた朝鮮学園弁護団の陳述により、主観に満ちた希薄な論拠ばかりか内容に虚偽があった事実をあらわにする結果となりました。
その後に続いた朝鮮学園側弁護団による陳述は、全6章からなる重厚な内容で、まさに「高校無償化」制度の趣旨に徹底して立脚した客観的主張をもって国の言い分をことごとく論破するものでした。

まず初めに、金英哲弁護士が陳述しました。金弁護士は、国際人権法や教育基本法の理念に照らし、規定13条適合性を都合よく解釈、適用している国の誤りを指摘しました。また、国が要件としてあげた「(支給した就学支援金が)流出する恐れがないこと」について、「財務諸表」の提出のみで「確実な充当」が認められている他の外国人学校を例に、法の差別的な適用(ダブルスタンダード)を指摘しました。そして、いわゆる「不当な支配」に関して、国が抽象的な文言に終始し、偏った情報ばかりをもとに恣意的に「反社会的な活動」や「密接な関連」などを作り上げていると断じ、具体的な実例を列挙しました。その中でも、国が証拠として採用した新聞報道が、拉致担当大臣が朝鮮学校を就学支援金支給対象から外すことを求めた時期に「朝鮮学校を除外するための知恵を絞れ」と題した社説を掲載した事実を紹介し、事実に反する露骨で一方的な偏向報道が「信用されないのは当然」だと指摘しました。また、公安調査庁による情報が「破防法に基づいて収集された」ものである以上、「教育的観点が必要な就学支援金の支給対象校の審査に利用することは到底許されない」と断じました。
金弁護士は最後に、国の主張が憲法や国際人権法、教育基本法を捻じ曲げて解釈し、朝鮮学校に対して予断と偏見の目で見ている。法の趣旨である「教育の機会均等」という最も重要な視点が欠けていると厳しく指摘しました。金弁護士の陳述が終わると傍聴席から大きな拍手が沸き起こりました。厳粛な法廷では許される行為ではないのかもしれません。しかし、気持ちを代弁してくれた陳述に皆、胸のすく思いで無心に拍手を続けました。
続いて李承現弁護士が陳述を行いました。李弁護士は「規定ハ削除が違法・無効であること」を時系列に沿った「不指定に至る流れの概略」を示すことで見事に論証しました。当時の中井拉致担当大臣による(朝鮮高級学校『無償化』除外)要請に端を発する一連の流れは、下村博文大臣はじめ自民党が拉致問題の停滞など政治的、外交的問題を理由に一貫して朝鮮高級学校「除外」を表明し、「規定ハ」の削除を断行した事実を有無を言わさぬ説得力で痛快に見せつけました。そして、国側弁護人が「規定ハ」の削除が文科省内でかねてからの懸案事項であったと主張した陳述の内容を根底から覆す決定的な事実を突きつけました。元文部科学事務次官・前川喜平氏の陳述書です。法廷に提出されたこの陳述書では大きく八つの事実が語られています。その中に、「高校無償化法制定当時、文部科学省内には朝鮮学校を対象として指定しないとする議論は存在せず、指定対象になるということは関係者の共通認識であった」と明確に示されています。また、「検討会議において『適正な学校運営』を議論する中で教育基本法の条項への抵触が問題とされたことは一度もなかった」ことや、「審査の継続中、高校教育改革プロジェクトチーム内において規定ハを削除する『省令改正』の準備を進めていたと望月氏が述べているが、当時の上司である自分の記憶にそのような議論などなかった」と明確に否定しています。最後に李弁護士は、「教育の機会均等」とは無関係な外交的、政治的判断に基づいて省令を制定し、削除した違法性を認め無効とした原判決判断に誤りはないと断言しました。陳述が終わると、法廷がまた拍手に包まれました。
最後に、丹羽雅雄弁護団長が総括的な陳述を行いました。「本件控訴審において十分に理解されるべき本質的事項」と題して、丹羽弁護団長は五つの重要な問題を裁判官に提起しました。第1に、この裁判が日本国家による「植民地支配」という歴史的事実への深い洞察なしに判断されるべきでないこと。第2に、朝鮮学校で学ぶ子どもたちの教育への権利に関わる裁判であるということ。第3に、この裁判が「高校無償化」法の立法趣旨に則って判断されべきであること。第4に、第二次安倍政権後、朝鮮学校で学ぶ生徒たちに対して「高校無償化」制度から排除する意図をもって不指定処分に至った経緯を十分に理解する必要があること、第5に、不指定処分によって、朝鮮学校で学ぶ子どもたちの等しく教育を受ける権利が侵害され、差別を生起させ、人種的憎悪によるヘイトスピーチ、ヘイトクライムを引き起こす原因となっている事実です。
その後、丹羽弁護団長は、歴史的勝訴を勝ち取った7月28日の「裁判報告集会」で登壇した大阪朝鮮高級学校在学生のスピーチを引用し、陳述を締めくくりました。そして最後にもう一度、この裁判が「植民地支配という歴史的背景を有した朝鮮半島にルーツを持つ民族的マイノリティーの権利に関する訴訟であ」ることを指摘し、裁判官に向かって「毅然として司法としての本質的役割を果たされ、歴史の法廷にも耐えうる適正かつ公正なる判断を求めるものである。」と力強く訴えました。
ひと際大きな拍手が三たび法廷を包みました。しかし不思議なことに、三度とも裁判官に咎められることはありませんでした。
この日、双方の主張が見せた対比は、子どもたちの教育権とは無縁の公権力による政治的企図を浮き彫りにし、すべての子どもたちが「等しく学ぶ権利」を求める朝鮮学園の主張の正当性を際立たせました。

その後、裁判長から今後の予定について双方に質問がありました。国側弁護士は「答弁書に対する反論をする」と息巻いて発言しましたが、裁判長から書証(証拠となる資料)の提出があるのかどうかと問われると、とたんにしどろもどろとなり長い沈黙の後、「…新たなものを出させて頂きたいと思いますが、具体的にこのようなものですと出せる状況にございません。」と口ごもるばかりでした。
一方、丹羽弁護団長は、頑固たる口調で「速やかに結審して頂きたい」と発言しました。
が、残念ながら結審には至らず、次回弁論期日を来年2月14日と定め、1時間に及ぶ裁判は閉廷しました。

裁判終了後は、いつもの通り大阪弁護士会館前で報告会が行われました。
まず、丹羽弁護団長が今回の弁論を総括しました。丹羽弁護団長は、自身の長い弁護士経験の中でも「国側が法廷で意見陳述を行うことは大変まれだ」と感想を述べました。「それだけ国はこの件に関して力を注いでいる証拠だ。」「決して負ける訳にはゆかない。」と力を込めて語りました。次いで要旨陳述を行なった金英哲弁護士が、「初めて右側に座ることになり戸惑ったが、1審で勝った側であることを実感した。」と述べ、最後まで勝ち切ると発言しました。続いて李承現弁護士が発言しました。李弁護士は今回提出した前川元文部科学事務次官の陳述書が大きな効果を発揮したと評価し、あらためて国側の矛盾を強く指摘しました。そして、完全勝利に向けて闘い抜くと決意を表明しました。
弁護団からの報告後、玄英昭学園理事長が発言しました。玄理事長は、1月26日の屈辱的な「補助金」裁判敗訴判決に始まった今年を振り返り、7月28日の「無償化」裁判で歴史的勝訴判決を勝ち取った喜びを今一度噛みしめました。そして、来年2月の「無償化」裁判控訴審第2回口頭弁論を闘い抜き、3月20日に迎える「補助金」裁判控訴審・判決言い渡しにおいて必ずや勝訴判決を勝ちとろうと参加者たちへ高らかに呼びかけました。
「高校無償化」裁判控訴審第2回口頭弁論は、来たる2018年2月14日(水)、午後3時から202号法廷で行われます。