第20回口頭弁論

結 審

■酷暑の8月9日、大阪地方裁判所において第20回目となる補助金裁判の口頭弁論が行われました。うだるような暑さの中、139名もの同胞、朝鮮学校保護者、卒業生や支援者らが傍聴に駆けつけました。4年を迎える長期裁判にも関わらず、朝鮮学校に学ぶ子どもたちの学習権が争われる本件裁判への関心の高さが伺えます。裁判の行方を注視する報道関係者らも集まり、法廷と傍聴者らを取材しました。また、この日は夏休み期間とあって第一の当事者である大阪朝鮮高級学校在学生たち12名が参加しました。傍聴抽選の後、午前11時から202号大法廷において裁判は行われました。
■提訴から4年、20回を数える裁判を締めくくる最終弁論。これまであらゆる書面や証拠資料、証人らによる尋問を通して行われた主張を128ページにも及ぶ最終準備書面に込めて原告弁護団が陳述を行いました。この日は本件裁判の集大成と言う事で原告弁護団からは12名の弁護士と1名の修習生が出廷しました。弁護団は今回提出した最終準備書面を要約し、①本件不交付の違法性と、②本件の本質について要旨陳述を行いました。
■先ずは、原弁護士が、被告大阪府の本件不交付処分の違法性について陳述しました。冒頭、原弁護士は「最も重要な点、出発点として、本件補助金は、子どもが学ぶ権利、アイデンティティを確立する権利を保障するためのものである」と補助金支給の目的について指摘しました。そして長い歴史を積み重ねてきた民族教育がアイデンティティの確立にとって必要なものとして、またはマイノリティの子どもの教育権として二重に保護されなければならないと強調しました。これらの基本的権利を充分踏まえた上で、①平等原則、差別禁止、②後退的措置禁止の原則という二つの規範が十分に尊重、適用されなければならないと指摘しました。そして、大阪府が補助金不交付を「正当化」する合理的証明を何ら出来なかった事を論証しながら原弁護士は、子どもの民族的学習権の実質的保障のための補助金を、一方的に剥奪した大阪府の不交付が違法であると結論付けて陳述を締めくくりました。
■次に木下弁護士が大阪市の補助金不交付決定の違法性について陳述しました。木下弁護士は、先ず本件補助金交付が「大阪府の補完」であるとするこれまで繰り返された大阪市の主張が矛盾し、大阪市独自の判断で交付されてきた事実を論証しました。そして①受理の時点では存在しなかった新たな要件が追加されたこと、②交付申請を受理してもなお、標準の処理期間から大幅に遅れ不交付決定を下したこと、③要綱に基づかず不交付決定を下したこと等から、大阪市の決定は原告の教育権を著しく侵害する行政手続違反、行政裁量逸脱行為として違法であると結論付けました。
■陳述の最後に、丹羽弁護団長が、この裁判において「適正かつ公正に判断されるべき本質的事項」について陳述しました。丹羽弁護団長は、①朝鮮学校とそこで学ぶ子どもたちは、日本国家による朝鮮半島への植民地支配という歴史的経緯を有する歴史的存在だと規定しました。そして、②本件訴訟は、憲法訴訟であると共に、すぐれて国際人権訴訟であると指摘しました。また、③日本国家が、戦後において植民地支配の歴史的清算を行わず、戦後一貫して朝鮮学校とそこで学ぶ子どもたちの教育を受ける権利を侵害し、差別と排除の施策を行ってきた中で、朝鮮学校の社会的存在意義を認め、そこで学ぶ子どもたちの教育権を保障するために大阪府と大阪市が施してきた助成事業を問うものであるとしました。そして、④特定の政治家により、朝鮮民主主義人民共和国と朝鮮総聯、朝鮮学校が一方的に結び付けられ、実態をまったく無視した露骨な偏見に基づく要件の定立と、それに伴う改定要綱をもって唐突に補助金全面不交付に至った事実を指摘しました。更には⑤本件補助金の不交付により、朝鮮学校で学ぶ子どもたちの学ぶ権利が著しく侵害され、差別を受けていると訴えました。丹羽弁護団長は最後に、本件訴訟は国際人権法の大きな流れの中で国際的にも注目されているとして、地方自治体による教育行政も国際人権基準に沿った運用が求められていると指摘しました。そして、裁判官に向かって国内の司法機関であると共に国際社会の一員であることを理解し、この裁判の本質を十分に踏まえた適正かつ公正な判断を求めるとして陳述を締めくくりました。
■裁判長が、すべての審理が終了したことを告げ、被告大阪府と大阪市に対し和解する意思、可能性の有無を確認しました。大阪府と大阪市の代理人はともに和解する意思がないと答え、それを受けて裁判長が弁論の終結を宣言しました。そして判決の日時を、2017年1月26日、午後1時30分と示して閉廷しました。