「朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪」の共同代表 / 藤永壯先生が韓国のインターネット新聞『PRESSian』(2018.9.10掲載)に寄稿された 変化する国際情勢の中で判決を迎える朝鮮学校 ~「高校無償化」裁判、大阪・東京控訴審判決を前に~ を以下にご紹介させていただきます。

来たる9月27日の「高校無償化」裁判控訴審判決を前に、子どもたちの「等しく学ぶ権利」と、「寛容」、「共生」を日本社会に取り戻すために闘ってきた私たちが、皆で共有しなければならない文です。
1審で敗れた日本政府が、控訴理由書で唾棄すべき矛盾した論理にしがみつき、自らのおぞましい差別主義、排外主義を糊塗するため躍起になっている姿が見えます。また、朝鮮学校に学ぶ子どもたちの笑顔と希望を願い、いつも支えてくれる人々の温かい心が伝わります。
そして、再び勝利するための信念を呼び覚ましてくれます。

変化する国際情勢の中で判決を迎える朝鮮学校
~「高校無償化」裁判、大阪・東京控訴審判決を前に~

藤永 壮2018年9月10日月曜日
今夏の日本は地震、豪雨、台風、酷暑など尋常ではない自然災害に見舞われ、在日同胞の子どもたちが通う朝鮮学校も少なくない打撃を被った。とくに7月6日に和歌山朝鮮初中級学校が台風7号の襲来で教室が水浸しになるなどの被害を受けたのに続いて、9月4日には台風21号の暴風雨で大阪・兵庫・京都など関西各地の朝鮮学校が甚大な被害を受けた。さらにその直後の9月6日未明に北海道で強い地震が発生したが、幸い北海道朝鮮初中高級学校に大きな被害はなかったという。
自然災害が起こるたびに、SNS上では各地の朝鮮学校の安否を心配するメッセージが飛び交う。それは在日同胞が朝鮮学校に格別の愛情をもっているからだが、一方で多くの朝鮮学校が財政難により施設の補修もままならない状態であることを、みなよく知っているからでもある。
このような困難な財政状況は、日本国家が朝鮮学校を敵視し、今日に至るまで経済的支援を一貫して拒んできたという事情によるところが大きい。教育の機会均等を目的として日本政府が2010年度に始めた「高校無償化」制度から、朝鮮高級学校だけが最終的に排除されたのは2013年2月。この露骨な差別政策に抗議し、朝鮮高級学校の生徒・卒業生たちや運営主体の学校法人は、5年以上にわたって制度の適用を求め、裁判闘争を展開してきた。この間の事情はこれまで『プレシアン』に何度も寄稿してきたが、この9月から10月にかけて大阪と東京で控訴審判決が宣告されるのを前に、ここで改めて論点を紹介しておきたい。
大阪地裁判決の衝撃
現在、日本に10校ある朝鮮高級学校の中で、日本国家を相手取って提訴したのは大阪・愛知・広島・九州・東京の5校である。このうち福岡地方裁判所小倉支部で審理中の九州朝鮮中高級学校(福岡県北九州市)を除く4校には、すでに地方裁判所で第一審判決が言い渡された。その結果は、大阪(2017年7月)では原告全面勝訴の画期的な判決が下されたものの、広島(2017年7月)・東京(2017年9月)・愛知(2018年4月)では原告敗訴の不当判決となった。4校はいずれも高等裁判所で控訴審を係争中であり、来たる9月27日に大阪高裁で、10月30日には東京高裁で判決が言い渡される予定である。なお九州(福岡)の裁判は9月20日に結審する予定であり、今年末または来年初めには地裁判決が出るものと予想される。

大阪地裁による原告(大阪朝鮮学園)全面勝訴の判決は、大阪朝鮮高級学校に対する「高校無償化」制度の不指定処分について、当時の下村博文文部科学大臣が裁量権を逸脱、濫用したもので違法、無効であり、同校は法令に基づき適正に運営されていると認めるものであった。しかし一方で、広島・東京・愛知各地裁は、朝鮮高級学校の教育内容は朝鮮総聯の「不当な支配」を受けている疑いがあるとする日本国家側の主張を支持し、不指定処分については文科大臣の広範な裁量権を認める不当判決を宣告した。
大阪地裁での全面敗訴に危機感を抱いた日本国家側は、控訴理由書で朝鮮総聯の「反社会的組織」としての性格をいっそう強調し、総聯の「不当な支配」のもとにある朝鮮高級学校の教育内容は、教育基本法の理念に反する疑いがあるという牽強付会の主張を執拗に展開した。本来、教育の機会均等を目的とするはずの「高校無償化」制度の適用において、植民地宗主国の意識に満ちた公安警察的な観点をもって、朝鮮学校に対する差別を正当化しようとしたのである。
2018年9月4日の台風21号でなぎ倒された生野朝鮮初級学校の木を、翌日駆けつけた保護者たちが片づけている。©長崎由美子
破綻する日本国家の論理
このような論理展開は審理が進むにつれ、大阪以外の地域の裁判においても日本国家側の強調するところとなっている。しかし教育基本法などの法令に基づく適正な学校運営に疑いがあるとして、朝鮮高級学校を不指定処分にしたというのは、実のところ後付けの理屈に過ぎない。そもそもの不指定理由は、朝鮮高級学校を制度から排除するため、指定の根拠となる法令の規定自体を削除したところにあった。
文部科学省は2010年11月、各朝鮮高級学校から「高校無償化」制度適用のための申請を受け付けはじめた。しかし延坪島砲撃事件の勃発などを理由に、当時の民主党政権は2年以上も審査の結論を出さず、決定を先延ばしにした。そして自民党への政権交代によって2012年12月に成立した第2次安倍晋三政権は、いわゆる拉致問題などの政治・外交上の理由から、当初より朝鮮高級学校に「高校無償化」制度を適用しない方針を固めており、2013年2月20日付で指定の根拠となる規定を削除すると同時に、不指定の通知を送付した。これは明らかに朝鮮高級学校だけを標的とした制度改悪であった。制度を適用するといったん門戸を開いておきながら、申請後になって適用のルール自体を変更するという卑劣きわまりない措置が取られたのである。
この点について、大阪地裁判決では、「教育の機会均等の確保とは無関係な外交的、政治的判断に基づいて」規定が削除されたのであるから、これは文科大臣への「委任の趣旨を逸脱するものとして違法、無効である」と明確に日本国家側の主張を否定する判断を下した。ところが根拠規定削除が違法である点に、とくに焦点を絞り込んでいた東京朝高弁護団の主張に対しては、東京地裁は正面から応答せず、日本国家側の「不当な支配」論に与し、文科大臣による裁量権の逸脱、濫用は認められないとの判決を言い渡したのである。
東京高裁での控訴審において朝高側弁護団が、第一審が規定削除の違法性について検討しなかったことを批判すると、裁判官は日本国家に対して不指定処分の二つの理由――根拠規定削除と、法令に基づく適正な学校運営への疑念――の論理的整合性について説明を求めた。実は「法令に基づく適正な学校運営」は、朝鮮高級学校指定に適用される根拠規定の下位法令に定められた条件なので、その根拠規定が削除されれば、当然「法令に基づく適正な学校運営」という条件は存立の基礎を失うはずなのだ。裁判官の指摘に対して、日本国家側もこの二つの不指定理由は論理的に両立しないと認めざるを得なかった。日本国家側の主張の論理的破綻は、東京高裁での審理の過程でいっそう明確にされたのである。
2018年7月26日に実施された大阪7カ所一斉街頭宣伝行動。約400名の朝鮮学校生徒・卒業生・保護者・教員ら学校関係者、日本人を含む支援者が朝鮮学校が被っている不当な差別について訴えた。©朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪
変化する東北アジア情勢の中での判決
今年に入って朝鮮半島をめぐる国際情勢は劇的に変化した。すでに2回の南北首脳会談が開催され、9月18~20日には文在寅大統領の平壌訪問と3回目の首脳会談が予定されている。6月12日には歴史的な初の朝米首脳会談が実現した。
一方で7月16日には、韓国の43人権・市民団体が、日本政府の朝鮮学校差別是正を求める連帯報告書を国連人種差別撤廃委員会に提出した。そして8月30日には、同委員会が2014年に続き、日本政府に対して朝鮮学校に「高校無償化」制度を適用するよう勧告を行ったのである。東北アジアの国際環境が平和と和解へ向かって大きく舵を切る一方で、日本政府の差別政策を批判する国際世論はますます高まっている。
にもかかわらず、6月28日には関西国際空港で、朝鮮民主主義人民共和国への修学旅行から帰ってきた神戸朝鮮高級学校生徒の土産品が押収される事件が起こった。このような嫌がらせとしか思えない事件に対して、韓国の市民団体がいち早く抗議活動に立ち上がってくれたことは大変心強かった。日本政府は時代の趨勢となった東北アジアの平和構築に貢献し、また過去の植民地支配への責任を全うするために、まずは「高校無償化」制度からの排除をはじめとする朝鮮学校への差別政策を即刻中断しなければならない。
国際情勢が大きく変化する中で、大阪と東京の高等裁判所が改めてどのような判断を下すかが注目される。8月25日に大阪朝高オモニ会は「高校無償化」制度の設計にあたった前川喜平前文科次官を講師に迎え講演会を開催したが、その場で前川前次官はこの裁判で日本国家側が敗訴すると考えていたと明確に語った。常識的に考えれば朝鮮学校側が敗れるはずのない裁判なのである。大阪では原判決が支持され、東京では今度こそ朝鮮学校側の主張が認められることによって、日本の司法の独立性が証明され、その信頼を二度と傷つけることのないよう強く求めたい。
2018年8月25日に大阪朝鮮高級学校オモニ会の主催で前川喜平前文科次官の講演会が開催された。講演終了後、オモニ会代表のリードで参加者が大阪「高校無償化」裁判控訴審の勝訴を願ってシュプレヒコールを唱和している。©朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪

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