8月25日。
土曜日とはいえ、朝10時からの企画に果たして人が集まるだろうか?
9月27日の「高校無償化」裁判控訴審判決言い渡しを目前に控え、当事者である朝高オモニたちが主催した「前川喜平氏講演会」。この間、ビッグイベントの企画・準備に奔走したオモニたちの不安は開演直前までぬぐえませんでした。
しかしその心配は杞憂に終わりました。「高校無償化」法の制度設計に、当時現場のチーフとして一番間近で携わった前川氏の「生の発言」を聞こうと多くの同胞、保護者、卒業生たちや日本人支援者たちが会場の「クレオ大阪・南」大ホールに詰めかけました。404の席は埋まり、立ち見が出るほどの盛況ぶりです。
皆、昨夏の歴史的勝訴判決を再び高裁でも勝ちとろうという同じ気持ちで集まりました。
冒頭、主催者を代表して大阪朝鮮高級学校オモニ会長が舞台で挨拶をしました。オモニ会長は、今講演会の意義に加え、講師を引き受けてくれた前川氏に謝辞を述べました。次に、司会者が講師のプロフィールを紹介し、前川氏を舞台へと招きました。満場の拍手に迎えられた前川氏は演壇まで進むと深々と一礼しました。
「アンニョンハシムニカ。」第一声は朝鮮語での挨拶。次いで「アリラン」をひと節歌いました。途端に会場の雰囲気が和らぎ、聴衆らが演壇にひきつけられました。
講演は終始、穏やかな語り口で進められました。それでも、前川氏の表情や真摯な言葉からは、理不尽な政治的意図により制度差別を行った政府への怒りと、教育行政に身を置きながらもそれを水際で防ぐことができなかった忸怩たる思いが伝わって来ました。
とりわけ、制度を朝鮮高級学校に適用させるかどうかを客観的に確かめるため自ら立ち上げた「審査会」が、極めて外交的な理由で審査を凍結させられ、「棚上げ」のまま恣意的に放置された事実を怒りに満ちた口調で語りました。また教育機関に対する「不当な支配」の意味がすり替えられ、総聯組織と学校の関係性が咎められた状況をおかしいと一言で喝破しました。氏は、他の外国人学校を例に挙げ、「民族的アイデンティティーを正しく涵養するために民族団体と連携を取るのは至極当然のことで、むしろ必要不可欠なことだ」と論じました。

また、審査の期間中、今後「高校無償化」制度に含まれることとなる朝鮮高級学校について知っておく必要があると思い、近畿3校の朝高を訪問した経験を振り返りながら、朝鮮学校の教育レベルが非常に高かったと感想を述べられました。生徒らが「現代口語体」で短歌や俳句を作る授業を参観し、高い知識と感性を目の当たりにしたとしながらも、民族の言葉を主体として行われている教育の大きな意義について深い感銘を受けたと語りました。
行政の立場から見ても、朝鮮学校のあり方から見ても、制度除外の正当性は何一つ見出せないと、前川氏は力を込めて言いました。そして、「民族教育権」を勝ち取るための法廷闘争を自分も応援していると語るや、場内は割れんばかりの拍手に包まれました。
その後も話は多岐にわたり、現在の日本の司法が置かれた危うさ、三権分立の崩壊を思わせる嘆かわしい現状、止まる所を知らない日本社会の右傾化や、危険な民族純化思想などについて語られました。特に日本社会の少子化について、未来の日本社会を憂う思いを語りました。そして、その最も望ましい解決の道は「共生」にこそあると確信に満ちた口調で語りました。しかし、事あるごとに国際化を謳う政府の姿勢は真のグローバルからは程遠い。北欧の国々が示している「エスニックマイノリティ教育」への寛容とは天と地の差があると断じました。
そして、この状況を打開するため、共に声を上げ続けようと投げかけて講演を締めくくりました。その後、質疑応答が行われ、主催した大阪朝鮮高級学校オモニ会の役員代表らが舞台に並びました。オモニたちはマイクを手に、1ヶ月後の高裁判決に向けて、一層運動を盛り上げて行こうと力強く呼びかけました。そして最後に会場と一つになりシュプレヒコールをあげて講演会の全ての予定を終了しました。
「高校無償化」制度に直接携わり、朝鮮高級学校除外の経緯をもっとも間近で見て来た前川氏の話を聞いて、参加者たちは皆、確信しました。やはり子どもたちの「等しく学ぶ権利」を求めるこの闘いにおいて正義は我々にあると。そして、その正義を揺るぎない勝利へとつなぐため、来たる9月27日の控訴審判決言い渡しを万端の準備で迎える決意を新たにしました。