国による官製差別を改めて正当化
2025年度の政府予算案に関する修正協議で、与党自民・公明両党と日本維新の会が2月25日、高校の授業料を公立・私立を問わず一律に、所得制限なしで支援する内容の「教育無償化」で合意しました。かねてより広く非難されてきた通り、この修正案は少なからぬ問題をはらんでいると言われています。
専門家らが各種メディアを通じて「公立離れ」の加速や私学による授業料の「便乗値上げ」など具体的な問題点を指摘しております。ですが、国による不当な方法によって極めて政治的理由をもとに朝鮮高級学校のみが制度から除外され続けている事実について糾す言説は残念ながらひとつも見受けられません。国家間の政治的問題と何ら関わりのない朝鮮高級学校生徒たちに背を向け続ける日本政府の旧態依然とした態度を是正するべく、合意発表の三日後に当たる2月28日国会内で、田中宏一橋大名誉教授ら学者と支援者たちが記者会見を開きました。
田中名誉教授は会見で「子どもに罪はない。朝鮮学校排除をやめ、無償化対象に加えるべきだ」と主張しました。また、2010年にスタートした「高校無償化」制度で、国内の外国人学校やインターナショナルスクールも対象となったが、朝鮮学校のみが除外されたことに触れ、国連の各委員会が日本政府に教育を受ける権利を侵害しているとして度々「是正勧告」を出している事実を語りました。また、和田春樹東大名誉教授は「十数年にわたり排除する日本政府の姿勢はおかしい」と述べられました。
この記者会見を受け、週明けの3月4日「産経新聞」に、ある記事が掲載されました。
記事では上記の国会記者会見について触れ、「高校無償化」制度からの朝鮮高級学校除外を下記のように正当化しました。
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高校無償化制度は公立校では授業料を取らず、私立校の生徒らには支援金を支給する仕組みで、22年に旧民主党政権が目玉政策として導入した。当初は朝鮮学校も対象とする方向で検討していたが、22年11月に北朝鮮が韓国・延坪島を砲撃したことを受けて菅直人首相(当時)が審査を凍結した。24年の第2次安倍晋三政権発足後、下村博文文部科学相(当時)が、拉致問題や在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)との関係を問題視し、25年に省令を改正、朝鮮学校を対象外とした。学校側が除外を違法だとして起こした各種訴訟は、いずれも国側勝訴の判決が確定している。
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また、この件に関する産経新聞の取材に答えた「朝鮮高級学校除外」の急先鋒・下村氏や自民党保守系議員の発言を以下のように紹介しています。
「日朝国交正常化と連動すべきであり、拉致問題も全く動いていない以上、無償化はあり得ない。生徒は日本の高校に通ってほしい。」
「現行でも対象ではないのに、わざわざ対象にするのは反発が強く、ハードルは高いだろう。万が一そうなったら暴れる。」
上が下村氏の発言内容ですが、一言一句すべてに重大な問題があります。
日朝両国の国交如何に関わらず、子どもたちの「学ぶ権利」は守られるべき基本的人権問題です。言うまでもなく、子どもたちの普遍的教育権を「拉致問題」解決のための交換条件になどすることは許されません。民族的アイデンティティーの涵養を求め、朝鮮学校に学ぶ生徒たちに向かって、なぜ「日本の高校に通え」と簡単に言えるのでしょうか。それぞれ人々が持つ尊厳に対する視点が決定的に抜け落ちているとしか思えません。
この記事が出た2日前の日曜日、全国の朝鮮高級学校で卒業式が執り行われました。
自らのルーツについて知り、より深め、誇りとして生きるための「芯」に作り上げてきた大切な真の学びの日々。それを支えてくれた親や友、恩師と手を取り合い、新たな出発の喜びを分かち合った門出の日に、彼ら彼女らは未来にどんな夢と希望を抱いたでしょうか。
卒業生たちを、ただ一度も対象として支給を受けられないまま、今年も送り出してしまいました。
この差別的な状況がくり返される事なく一日も早く解消されるよう声をあげ続けなければなりません。