呪縛か、それとも口実か?
朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)
これは、2016年3月29日、馳浩文科大臣(当時)の名義で、北海道外の1都2府24県知事宛に出された「通知」のタイトルです。
国自らがこの通知の冒頭で認めている通り、朝鮮学校に係る補助金交付を国庫からは「ビタ一文」行なっていません。すべての朝鮮学校の創立以来、一貫してです。
にも関わらず、設置認可権を持つ地方自治体のうち、朝鮮学校が所在し、あらゆる形式で補助金を支給している上記27の知事らに対し、朝鮮学校への補助金支出を「考え直す」よう促す文書を送りつけました。
これは、子どもたちの「学ぶ権利」、朝鮮学校が持つ私学としての「建学の精神」や「教育理念の自由」、そればかりか地方自治までも根底から否定する暴挙に他なりません。
もちろん通知には、補助金の支出を差し控えるよう求める直接的な文言はありません。しかし、長きに渡る日本政府の差別的で敵対的な「対北朝鮮政策」、そしてそれをベースとしたメディアによる「悪魔化」、「北朝鮮=朝鮮総聯=朝鮮学校」の図式などが、受ける側に強圧的なニュアンスを読み取らせます。何より、2010年度に始まった「高校無償化」制度から朝鮮学校のみを除外した国の頑なな態度と、長きに渡る法廷闘争での主張が、無言の圧力となるに十分なメッセージを送っているのは間違いありません。「通知」が出された後も、自主性と多様性を重んじ、補助金支出を続けてきた自治体も徐々に態度を硬化させ、再検討から減額へ、さらには凍結、そして停止へと舵を切り出しています。2018年2月21日付の毎日新聞に掲載された記事を以下に紹介します。
補助金「復活を」 市民団体要望、県「見解に変化なし」 /茨城
茨城朝鮮初中高級学校(水戸市千波町)への県の補助金が2年間にわたり停止されていることについて、市民団体「朝鮮学校の子供たちの人権を守る会」など5団体が20日、2018年度予算での復活を求める文書を大井川和彦知事宛てに提出した。県は「見解に変化はない」としており、復活の可能性は低い。学校側は「人種差別であり、引き続き復活を求める」としている。
5団体は昨年10月、大井川知事による初の新年度予算編成を前に、停止の正当性や復活の有無を尋ねる質問状を県に提出した。
これに対して、県私学振興課は先月、補助金の「公益性や透明性の確保」を求めた文部科学省の通知(16年3月)を根拠に、「停止は人種差別には当たらない」と回答。取材に対して、同課は「県としての見解に変化はない」としており、23日に発表する18年度予算にも盛り込まないとみられる。
県は1981年から、私立学校助成金に代わる形で、教育環境整備を理由に補助金を支払ってきた。15年度分は約160万円だった。
しかし北朝鮮の核・ミサイル問題の深刻化を背景に、16年度分から補助金を支払っていない。
同校の尹太吉校長は「35年続いてきた補助金がなぜ停止されるのか、相変わらず曖昧な回答しかない。補助金停止は人種差別であり生徒への人権侵害だ」と述べた。
国は、きっと「出すなとは言ってない。朝鮮学校が北朝鮮と密接な関係にあり、影響を及ぼしていると政府が認識していることを前提とし、補助金の使途を精査し、適正かつ透明性を確保した上で住民らに情報提供するようお願いしているだけだ。」と強弁するでしょう。しかし、受け取る側の地方自治体は、記事の通りこの「通知」を不支給の根拠としています。互いがなすりつけ合う責任の所在は一体どこにあるのでしょう。民族的アイデンティティー教育を認め、多様性を重んじて育んできた社会の寛容性をかなぐり捨ててまで「右に倣う」態度から正義を見い出すことは決して出来ません。
来たる3月20日、大阪高裁において「大阪府・大阪市補助金裁判控訴審」の判決が言い渡されます。
先の地裁判決では、補助金は贈与であり、係る裁量は首長にあるとの誤った認識が示されました。
差別を是とするいかなる主張も許してはなりません。
すべての子どもたちが「等しく学べる社会」を築くため、私たちは闘い続けます。