補助金裁判・判決言い渡し

子どもたちの「学ぶ権利」を否定する不当判決

■2017年1月26日、大阪朝鮮学園が大阪府及び大阪市に対して補助金不交付処分の取消しと交付決定の義務付けを求めて起こした裁判が、実に4年4ヶ月の歳月を経てついに判決を迎えました。民族教育権を争う全国初の補助金裁判は、日本社会の右傾化を憂慮する世論と相まって内外の大きな関心のもと、2012年9月20日から始まり、これまで20回にわたる口頭弁論を重ねて来ました。この間原告大阪朝鮮学園が一貫して訴えてきたのは、朝鮮学校で学ぶ子ども達にも「平等に学ぶ権利」を与えて欲しいと言う当然の権利に他なりません。この日、349人の傍聴希望者が大阪地裁に詰めかけました。
■大阪府内で10校の朝鮮学校を運営する学校法人大阪朝鮮学園に対する補助金の支給開始は1974年に遡ります。これまで学園と行政間の良好な信頼関係のもと40年近く実施されてきた民族教育助成事業でした。ところが当時の橋下徹大阪府知事はいわゆる「肖像画問題」をはじめとする「4要件」という極めて不当な要件を唐突に持ち出して朝鮮学園側に一方的に押しつけ補助金の支給を凍結してしまいました。
学園は2012年3月に要件を調え交付を申請しましたが、府は産経新聞が記事で取り上げた「迎春公演」を理由に2011年度分から初、中、高すべての補助金を停止しました。これに倣うかのように大阪市も不交付を決定し、交付要綱を改定したのでした。理不尽に過ぎる府・市の決定を受け大阪朝鮮学園はその半年後に裁判を起こしました。学園は一貫して民族教育の重要性と公益性、そして政治的問題を根拠とした不交付処分の不当性を20回にわたる口頭弁論を通じて訴え続け、ついに判決に至りました。
■裁判は午後1時30分に始まりました。裁判長はまず、主文を読み上げました。「主文 1.本件訴えの内、被告大阪府に対し『大阪府私立・外国人学校振興補助金を交付しない旨の処分の取り消しを求める部分、及び同補助金の交付の義務付けを求める部分、並びに被告大阪市に対し『大阪市義務教育に準ずる教育を実施する各種学校を設置する学校法人に対する補助金』を交付しない旨の処分の取り消しを求める部分、及び同補助金の交付の義務付けを求める部分を却下する。2.原告のその余の請求をいずれも棄却する。3.訴訟費用は原告の負担とする。」
法定内に傍聴者らの驚きと憤慨、落胆に満ちた嘆息が低く漏れました。
「理由の骨子を述べます。」しかし、主文に続けて裁判長が判決の理由を語り出すと、傍聴者らの怒りは頂点に達しました。長々と語られた「理由」には何一つ納得できる正当な内容が無く、ただひたすら大阪府と市の主張をなぞっただけの口実に過ぎなかったからです。その要旨は「補助金の交付は申込みに対して承諾し、給付したに過ぎず『贈与』であり」、したがって「申請する学校側に交付を受ける権利があるわけではない」といったものでした。また「補助金交付には行政の裁量がある」として、先の4要件に「相応の合理性がある」としました。
そして、裁判長は最後に言いました。「補助金の交付を受けられないことにより結果として朝鮮学校に通学する児童・生徒・保護者の学習環境の悪化や、経済的負担の増大などの影響が懸念されるところではあるが…、やむを得ないと言わざるを得ない。」あたかも財政難にあえぐ朝鮮学校と厳しい経済状況に耐えながら民族教育を受ける子どもたちと保護者らに配慮するかの様な言葉をかけながらも敗訴判決は仕方ない事と言い放ちました。
朝鮮学校設立の歴史的経緯や、長きに渡り行政と共に培ってきた信頼関係、在日コリアンにとって民族教育の必要性、そして何よりもこの問題で直接被害を被るのは何の罪もない幼い子どもたちであり彼らこそ未来の日本社会を共に担って行く構成員である事実など、本件訴訟の核心についてひと言も触れられることのない不当な判決によって第1審は終わりを告げました。
「人間の心をもって考えろ!!」
退廷する裁判長に向けて浴びせられた傍聴者の悲痛な叫びが、朝鮮学校の当事者とすべての在日同胞、日本人支援者らの耐え難い心情を代弁していました。
■裁判終了後、理事長、弁護団長、支援者代表らにより記者会見が行われました。そしてそれと並行し中之島公会堂会議室で支援者らを対象に報告会が開かれました。また、夜には大阪市中央区民センター大ホールにて「大阪府・市補助金裁判/判決言い渡し報告集会」が行われました。


■裁判後、記者会見が行われました。会見には大阪朝鮮学園理事長と弁護団長、無償化連絡会事務局長が参加しました。

大阪朝鮮学園が敗訴判決を受け声明を発表

不当判決に終わった裁判の終了後、記者クラブで会見が行われました。
内外の大きな関心を受け、多数の主要メディアが駆け付けた会見に臨んだのは原告・大阪朝鮮学園の玄英昭理事長、弁護団の丹羽雅雄弁護団長、無償化連絡会・大阪の長崎由美子事務局長でした。会見では、玄理事長が大阪朝鮮学園の声明文を、長崎事務局長が無償化連絡会・大阪の声明文を読み上げました。その後、玄理事長は記者からの質問に答え「補助金の支給停止で深刻な財政難に陥っている。」「民族教育の権利を否定する不当な判決で到底受け入れることは出来ない。」と怒りを露わにしました。また、速やかに控訴する意向を明かし、勝利する日まで闘い続ける意志を力強く表明しました。

大阪朝鮮学園声明

―慟哭、天に達す。怒りをもって闘い続けるー

大阪朝鮮学園は、補助金を、教育に対する政治干渉、圧力として利用し、児童生徒の人権、学習権を踏みにじる大阪府・大阪市の措置の不当性を社会に訴えるべく、2012年9月20日に提訴し、4年4ヶ月、20回に及ぶ口頭弁論を経て、本日、判決言渡しを迎えました。
私は、本日の大阪朝鮮学園の請求を棄却した大阪地方裁判所の判決に強い憤りを覚え、怒りに体が震えました。
決して容認することが出来ません。
国や行政・マスコミが一体となり、反朝鮮学校・反民族教育の風潮を醸成し、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムがはびこるような社会が形成されようとしている今般、また、法治国家・先進国を謳っている日本において、唯一、決して間違った判断をしてはならない裁判所までもがこのような判断を下すとは、夢にも思いませんでした。今も信じられません。
全国でも有数の良好な関係にあった大阪府・大阪市と朝鮮学園との関係を壊し、政治や外交上の問題を教育に持ち込んだ一人の首長の判断による補助金の打ち切りは、決して許されることではありません。
朝鮮学校だけを公的助成制度から排除することは、民族教育の権利を否定する、不当な差別であるばかりか、「在日朝鮮人は差別されて当然」という風潮を煽るものです。
なぜ、自国の言葉や文化、歴史を学ぶことが否定されなければならないのでしょうか。
大阪朝鮮学園は今回の不当判決に対して激しい怒りをもって、強く抗議します。
そして、ただちに控訴し、最後まで、そして、勝利する日まで闘い続けます。
大阪朝鮮学園の主張の正当さは、必ず歴史が証明してくれることでしょう。
政府・司法・行政・マスコミが一体となって、行っている「民族差別」、「いじめ」はもうやめてください。
私たちは、今後も大阪府・大阪市の補助金交付並びに「高校無償化」制度の適用を求めて闘い抜きます。
朝鮮学校で学ぶ、子どもたちの笑顔・未来のために!
みなさまの一層のご支援をよろしくお願いいたします。

■不当判決を受けた翌日、控訴する意向を固めた学園と、無償化連絡会の声明文を大阪府と大阪市にそれぞれ手渡しました。

無償化連絡会・大阪が大阪府・市に申し入れ

民族教育の権利を一顧だにせず、行政の言い分を補完し救済することに終始した不当な敗訴判決を受け、無償化連絡会・大阪は翌日すぐに大阪府と大阪市の本庁を訪ねました。代表の事務局長、長崎由美子さんと大村和子さんは、不当判決への抗議と、速やかに控訴する意向を固めた大阪朝鮮学園と共に闘い続ける意志を伝え、前日の集会でも発表された声明文を担当者らに手渡しました。席上で長崎事務局長は、不当判決に対して最後まで闘い続ける意志を伝えつつ、府と市に再度良識ある判断を求めました。「大阪府はこれまで、朝鮮学校に対し『地域社会の構成員』としての教育が実施されているという認識に基づき振興補助金を交付してきました。原点に立ち返り差別政策を直ちにやめて下さい。」そして大村さんは「補助金停止により朝鮮学校の財政は大変厳しい。子どもたちがのびのびと民族の心を学べるかけがえのない学校を奪わないで欲しい」と訴えました。

無償化連絡会・大阪 声明

学校法人大阪朝鮮学園が大阪府と大阪市を相手取り、2011年度分補助金の不交付決定取り消しと交付の義務付け、ならびに被交付者としての地位確認、国家賠償等を求めた裁判において、本日、大阪地方裁判所第7民事部は大阪朝鮮学園の請求を棄却する判決を言い渡しました。私たちはこのような不当判決を、決して認めることができません。
1974年度に始まる大阪朝鮮学園への大阪府の助成は40年近くにわたって継続されてきた事業で、1991年度からは「大阪府私立外国人学校振興補助金」が交付されていました。また大阪市も1990年度から「義務教育に準ずる教育を実施する各種学校」として補助金を交付してきました。
ところが2010年3月、当時の橋下徹大阪府知事は「北朝鮮という国は不法国家。関係する学校とか施設とかはお付き合いをしない」などと述べ、大阪朝鮮学園に対し、特定の政治団体と一線を画すこと、特定の政治指導者の肖像画を教室から外すこと、などのいわゆる「四要件」を補助金交付の条件として唐突に提示しました。
大阪朝鮮学園による対応の結果、教室の肖像画を外さなかった高級学校以外の初中級学校には、2011年3月に2010年度分の補助金が交付されました。ところが2011年度に入ると、教室だけでなく職員室からも肖像画を外すよう求められるようになり、そして2012年3月に毎年恒例の平壌での迎春公演に朝鮮学校の児童・生徒が参加していることが報道されると、大阪府はこれが学校行事でないとの確証が得られないとして、2011年度分の補助金を交付しないと決定しました。続いて大阪市も府の決定に追随し補助金不交付を決めましたが、交付要綱を改定したのは不当にも不交付の趣旨を学園に伝えた後のことでした。そしてこの大阪府・大阪市の決定が引き金となって、地方自治体による補助金交付の見直しが各地へ拡がることにもなりました。
「高校無償化」制度の不適用と併せて、こうした朝鮮学校に対する公的助成からの排除は、先の橋下前知事の発言からも明らかなように、朝鮮民主主義人民共和国との政治・外交上の問題を理由としていました。しかし大阪府の振興補助金は、朝鮮学校が「地域社会の構成員としての教育が実施されている」という認識にもとづき交付されてきたものです。教育の機会均等実現や民族教育の保障は、憲法をはじめとする国内法規や国際人権法に定められ、政府・地方自治体として実行しなければならない責務でもあります。実際に2014年9月には、国連人種差別撤廃委員会が日本政府に対して、朝鮮学校に「高校無償化」制度の適用とともに、地方自治体には補助金再開・維持を要請するよう勧告しています。
にもかかわらず、文部科学省は2016年3月、朝鮮学校へ補助金を交付してきた28都道府県知事あてに、事実上その見直しを求める通知を送付しました。日本政府および地方自治体が朝鮮学校だけを助成制度から排除することは、民族教育の権利を否定するという意味において、不当な民族差別であるにとどまらず、「在日朝鮮人は差別されて当然」という言わば「上からのヘイトスピーチ」を日本社会へ発信することになりました。
私たち「朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪」は2012年3月の結成以来、以上のような認識を大阪朝鮮学園および原告弁護団と共有し、この困難な裁判闘争を支援してきました。そしてこの間、大阪はもとより日本全国の心ある方々から、また韓国の市民運動から、大きな激励と支援をいただきました。支援して下さった方々にこのような残念な結果をご報告しなければならないことを、まことに無念に思います。
しかし大阪朝鮮学園の主張の正当さは、必ずや歴史が証明してくれることでしょう。私たちは不当判決に怒りをもって強く抗議するとともに、今後も大阪府・大阪市の補助金交付、そして「高校無償化」制度の適用を求めて闘い抜くことを、ここに表明します。志を同じくする方々のいっそうのご支援をお願いいたします。

2017年1月26日
朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪