第16回口頭弁論

11月17日(火)、大阪地方裁判所202号大法廷で「大阪府・大阪市補助金裁判」第16回口頭弁論が行われ、降り続く雨の中、146人もの傍聴希望者が法廷に詰めかけました。その中には社会見学の一貫として裁判所を訪れた生野朝鮮初級学校6年生児童たちの姿もありました。「無償化裁判」と共に本訴訟も大変重要な局面を迎えつつあります。来年には年明け早々「人証」も行われる見込みです。原告である朝鮮学園と弁護団は、府市による補助金交付停止は単なる「贈与の見直し」などでは決してなく、長きに渡る信義則に背き、朝鮮学校に学ぶ子どもたちの教育権をも侵害する著しい民族差別であると、これまでの3年間地道に立証を積み重ねてきました。しかし、この度裁判所の構成が変わり、長らく本件訴訟に携わってきた裁判長が異動となりました。だからと言って、これまでの主張を通じて知らしめてきた朝鮮学校の歴史と実状、保護者や生徒、卒業生をはじめとする地域同胞らの朝鮮学校に対する思いを新しい裁判長がむげにし、単なる「府市による“贈与”の問題」として事務的に処理する様な事があってはならないと、今回原告弁護団は「弁論更新における意見陳述」を行いました。


本件訴訟で審理されるべき本質的争点を陳述

■今回、弁護団はリレー式に意見陳述を行いました。まず、丹羽雅雄弁護団長が本件訴訟の本質について述べられました。丹羽弁護士は「本件訴訟の本質的争点は各補助金の法的性質が何かではない」と前置きしながら、失われた民族的アイデンティティー回復のために朝鮮学校が歩んできた歴史を辿りつつ、「国際人権諸条約」を批准しているにも関わらずヘイトスピーチ等の差別的事象を国や地方自治体が率先して助長している現実を厳しく指弾しました。そんな中、「高校無償化法」の適用対象から朝鮮高級学校のみを除外する議論を受けて当時の大阪府知事が、子どもたちとは何ら無関係な政治的問題をあげつらい著しく予断、偏見に基づいた発言を繰り返しながら新たな「補助金交付要件」を持ち出した事実を指摘しました。そしてその要件を満たしたにも関わらず「言いがかり」に過ぎない更なる政治問題を持ち出して補助金不交付を断行した事は、「内なる国際化と多文化共生」という理念による継続した補助金交付の精神と経緯を覆し、民族的アイデンティティーを育む朝鮮学校で学ぶ子どもたちの教育権を脅かし、存在自体を危機的状況に陥らせる差別事象だと指摘しました。そして「容易な行政裁量論に陥ることなく、公正かつ適正に審理され、判断」するよう裁判官に強く求めました。続いて、普門弁護士が朝鮮学校への補助金交付の経緯に始まり本件に関する事実関係を「おさらい」しました。その中で普門弁護士は大阪の「在住外国人施策に関する方針」に触れ「在日外国人教育については、異なる文化、習慣、価値観等を持った児童・生徒が、互いに違いを認めあい、本人のアイデンティティーを保ちながら自己実現を図ることができるよう、ともに生きることのできる教育を進める」ことを指針として示しているにも関わらず補助金不交付に至った経緯の詳細を解説しました。次いで木下弁護士が本件の「法律上の論点」に関して陳述しました。木下弁護士は地方自治法や憲法、私立学校法などに照らし、朝鮮学校への補助金が単なる「私法上の贈与契約によって交付される」ものではなく、対象者に「権限」が与えられ、地方自治体側に「義務」が生じるものだと指摘しました。また、交付の根拠となる「法令」があることからも「単なる私法上の贈与契約ではなく、公法上の法律関係」であると主張し、不交付の違法性を「政治的理由による狙い撃ち」と断じました。また、不交付の決定的理由として府市が挙げた「特定の政治団体が主催する行事に学校の教育活動として参加していないこと」の「確証が得られず」という詭弁が「立証責任を誤ったもの」だとし、60日の期限を過ぎても交付決定を留保しながら遡及的に不交付としたことを「手続違反」と指摘しました。更には本件が「国際人権法」に違反する事実について主張して陳述を締めくくりました。陳述後は、裁判長から「検証」の代わりに朝鮮学校の実状を撮影したDVD映像を法廷で上映することが確認され、「人証」についての詳細を審議するために次回期日に先立ち、1月12日に「進行協議」を行うことが確認されました。次回期日は2016年1月21日(木)午前11時30分と決まりました。


裁判を傍聴した生野朝鮮初級学校の6年生児童たち

■この日の裁判を生野朝鮮初級学校6年生児童31名が引率の先生2名と共に傍聴しました。社会見学の一環として裁判所を訪れた児童たちは、裁判終了後の報告会にも参加しました。そして代表の児童らが丹羽弁護団長をはじめとする原告弁護団に感謝の言葉を述べました。「いつもウリハッキョのために活動して下さり本当にありがとうございます。僕たちがウリハッキョに堂々と通えるのもウリハッキョを応援してくれる方々がいらっしゃるからです。これからも僕たちはウリハッキョに通い、勉強やクラブ活動を頑張ります。これからも応援をよろしくお願いします。」あいさつを終えた子どもたちから感謝の言葉を綴った「寄せ書き」が弁護団に手渡されました。 朝鮮学校が国や地方自治体による差別的な扱いを受け、右傾化の進む厳しい社会状況の中にあっても、いつも支えて共に歩む支援者と弁護団の姿に子どもたちは希望を見出しています。子どもたちから挨拶を直接受けた弁護団の先生たちも感謝の言葉を伝えました。そして、「無償化連絡会・大阪」長崎由美子事務局長が、大盛況のうちに終えた先の支援集会について報告し、その集会にも参加した韓国の「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」から支援金が贈られたことを報告しました。最後に、丹羽弁護団長に促され大阪朝鮮学園ヒョン・ヨンソ理事長が、裁判最終局面での「人証」に向け意気込みを語り、更なる支援を呼び掛けました。参加者らは大きな拍手でこれに答え、民族教育の権利を勝ち取るまで頑張ろう!と気勢を上げて報告会を終わりました。