結審

朝鮮学校出身の弁護士が最終準備書面の要旨陳述

■2月15日午後3時、大阪地方裁判所には傍聴券を求めて160名にも及ぶ同胞保護者や卒業生、支援者らが詰めかけました。去る1月26日、「大阪府・市補助金裁判」において不当判決が言い渡された直後とあって、皆一様に厳しい表情で開廷を待ちました。長きに渡る行政の横暴とそれを追認した司法。真の当事者であるはずの子どもたちを置き去りにしたまま下されたあまりにも不条理な判決に、同胞・保護者や支援者らはやり場のない怒りを抱えたままこの日を迎えました。
■全国5箇所で同時に行われているこの裁判は社会的にも大きな関心を集めてきました。日本国政府が初めて国庫をもって外国人学校支援に乗り出した「高校無償化」制度そのものは画期的な施策として大変歓迎されつつも全国10の朝鮮高級学校のみを適用対象から除外するという差別的な政策が執られてきたからです。2010年4月1日から施行されたこの制度から6年以上が経過した今もなお朝鮮高級学校は置き去りにされたままです。2013年の提訴以来繰り返されてきた主張がこの日、法廷で集約されました。
最終弁論として準備書面の要旨を陳述したのは、朝鮮学校に学んだ経験を持つ二人の弁護士たちでした。まずは李承現弁護士が陳述しました。
■李弁護士は「本件訴訟は…、画期的な高校無償化法が成立したにも関わらず朝鮮高級学校だけが支給を受けられないという異常な差別的状態を解消し、同法の目的である『教育の機会均等』を成し遂げるための訴訟である。」と、この裁判の概要について先ず陳述しました。また、「朝鮮高級学校に通う生徒が民族教育を受ける権利を充足するための訴訟、子どもたちの未来を切り拓く訴訟である。」と付け加えました。さらに李弁護士は、支給の根拠となる「規定ハ」を削除した理由が政治上、外交上にあることが明白であると述べ、高校無償化法の趣旨を蹂躙する重大明白な違法行為であり無効だと厳しく指摘しました。
■続いて、金英哲弁護士が「本件不指定処分の違法性」について陳述しました。金弁護士は、「規定13条に適合すると認めるに至らなかった」という「後付けの理屈」が違法であるとし、文科大臣が「不当な支配」などの会計事務とは直接関係がない抽象的規定を「法令」に含めて解釈し、不指定処分を下したのは法の委任範囲を逸脱する違法行為であると述べました。また、憲法や国際人権条約の理念を軽んじて無視し、生徒たちが被る不利益に関して尽くすべき考慮すら尽くさず、本来過大に評価すべきでない国家や在日外国人団体との関係を過重に評価して行われた不指定処分は文科大臣による行政裁量の逸脱、濫用であると指摘しました。また、「不当な支配」や「適合すると認めるに至らない」事を主張する被告側が立証責任を負うべきだと強く主張しました。
■最後に、まとめとして丹羽雅雄弁護団長が発言しました。
丹羽弁護士は、本件訴訟の「十分に理解されるべき本質的事項」として、見逃してはならない重要な問題について陳述しました。
第1に、「朝鮮学校とそこで学ぶ子ども達の存在は、日本国家による朝鮮半島への植民地支配という歴史的経緯を有する歴史的存在であると言う事」、第2に、「朝鮮学校で学ぶ子ども達の教育への権利に関する裁判である事」、第3に、「高校無償化法の立法趣旨と構造に関する理解」が必要だと指摘し、第4に、「第2次安倍政権が成立した前後において、朝鮮学校とそこで学ぶ生徒に対して、高校無償化制度から排除する意図を持って本件不指定処分に至った経緯」を十分に理解する必要があると指摘しました。そして第5に、「本件不指定処分によって、朝鮮学校で学ぶ子ども達の等しく教育を受ける権利が侵害され、他の子供たちとの間で差別を受け、教育実施施設である朝鮮学校による母国語での普通教育と民族的、文化的アイデンティティーを育む教育実践が侵害され、他の教育施設との間に著しい差別を生起させ、人種的憎悪によるヘイトスピーチ、ヘイトクライムへの誘引ともなっている事実を指摘しました。最後に丹羽弁護士は、本件訴訟を「憲法訴訟」、「国際人権訴訟」であると規定した後、裁判官に向かって「国内の司法機関であるとともに国際人権条約社会での司法機関である事を理解」し、「歴史の法廷」にも耐えうる適正かつ公正なる判断を求めるとして陳述を締めくくりました。
■陳述終了後、裁判長が「判決言い渡し」の日時を7月28日午前11時と伝え、裁判は終了しました。
■裁判終了後、弁護士会館前で報告会が行われました。二人の弁護士からの報告があり、その後韓国「民主社会のための弁護士会」から傍聴に駆けつけた弁護士が紹介され、連帯と激励の挨拶をしました。続いて無償化連絡会・大阪の藤永壯、宇野田尚哉共同代表と同志社大学の板垣竜太教授が発言しました。三人は去る1月26日、大阪地裁の不当判決を受け「大阪朝鮮学園・補助金裁判不当判決に抗議する研究者有志の声明」を発表し694名(2月14日午前時点、呼びかけ人を含む)の賛同者名簿と共に声明文を2月15日、本件裁判に先立ち大阪府、大阪市に提出したと報告しました。また、17日には東大阪市にも提出する予定だと報告し、今後の活動方針として、補助金停止の方向へと向かっている地域の動向を注視しつつ情報を共有しながら効果的な対応策を練って行くと述べました。最後に、無償化連絡会・大阪事務局の大村和子さんが、引き続き朝鮮学校を支える支援活動を力強く推し進めて行こうと訴えかけました。